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名古屋地方裁判所 昭和63年(行ウ)36号 判決

尾西市起字堤町七〇番地

原告

駒興産株式会社

右代表者代表取締役

中島喜一郎

右訴訟代理人弁護士

酒井俊晧

同右

遠山治朗

一宮市栄四丁目五番七号

被告

一宮税務署長 坪川勉

右指定代理人

泉良治

同右

佐野明秀

同右

鈴木幸雄

同右

吉野満

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が昭和六一年一〇月二四日付けで原告に対して昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日までの事業年度以後の法人税の青色申告承認取消処分を取り消す。

二  被告が原告の昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日までの事業年度の法人税について昭和六一年一〇月三一日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定(いずれも昭和六二年三月二七日付け異議決定により一部取り消された後のもの。)を取り消す。

三  被告が原告の昭和五八年一〇月一日から昭和五九年九月三〇日までの事業年度の法人税について昭和六一年一〇月三一日付けでした更正及び重加算税賦課決定(いずれも昭和六二年三月二七日付け異議決定により一部取り消された後のもの。)を取り消す。

四  被告が原告の昭和五九年一〇月一日から昭和六〇年九月三〇日までの事業年度の法人税について昭和六一年一〇月三一日付けでした重加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告

原告は、不動産売買及び仲介業等を営む法人である。

2  被告による課税処分

原告の昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日まで、同年一〇月一日から昭和五九年九月三〇日まで及び同年一〇月一日から昭和六〇年九月三〇日までの各事業年度(以下、それぞれ「昭和五八事業年度」、「昭和五九事業年度」及び「昭和六〇事業年度」といい、合わせて「本件各事業年度」という。)の法人税について被告がした課税処分の経緯は、別表一ないし三記載のとおりである(以下、本件各事業年度の法人税につき被告が昭和六一年一〇月三一日付けでした更正及び加算税賦課決定(いずれも昭和六二年三月二七日付け異議決定により一部取り消された後のもの。)をそれぞれ「本件更正」及び「本件賦課決定」という。)

3  青色申告承認の取消処分

被告は、昭和六一年一〇月二四日付けで、原告の昭和五八事業年度以後の法人税の青色申告承認を取り消した(以下、この処分を「本件取消処分」という。)。

4  昭和五八事業年度の所得金額のうち争いのない部分

原告の昭和五八事業年度の所得金額の算定については、申告所得金額であるマイナス六五四万一六一八円に、貸倒損失の損金不算入額二二四万円を加え、欠損金の当期控除額一五万一七〇一円(昭和五三年一〇月一日から昭和五四年九月三〇日までの事業年度(以下「昭和五四事業年度」という。)の欠損金である。)を減ずる必要がある(その結果、マイナス四四五万三三一九円となる。)。

5  昭和五九事業年度の所得金額のうち争いのない部分

原告の昭和五九事業年度の所得金額の算定については、申告所得金額四〇万二六三八円から、貸倒損失認容額二二四万円を減ずる必要がある(その結果、マイナス一八三万七三六二円となる。)。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

1  本件取消処分の適否(争点1)

(一) 被告

被告は、昭和六一年四月二三日に係官をして原告の本件各事業年度の法人税の実地調査をさせたが、原告は、調査の当初は、原告の不動産取引に関する取引台帳及び契約書並びに貸金に関する資料を一時間程度係官に提示したものの、その後は、係官の再三にわたる帳簿書類等の提示の要請及び調査に応じるようにとの説得にもかかわらず、係官の調査を拒否し、帳簿書類等をまったく提示しなかった。

そのため、被告としては、原告の帳簿書類の備付け、記録及び保存が大蔵省令の定めるところに従って正しく行われていることを確認することができなかったのであるから、法人税法一二七条一項一号に定める青色申告承認取消事由に該当する。

したがって、本件取消処分は、適法である。

(二) 原告

原告は、本件各事業年度について、法令の定めるところに従って帳簿書類の備付け、記帳及び保存をしているし、被告係官による調査の際には、帳簿書類を提示した。しかし、係官が不動産売買契約書等をコピーしていたので、原告代表者(当時)がそれをやめるよう申し出たところ、係官は直ちに調査を打ち切ってしまった。その後、原告代表者は、被告係官の呼出しに応じて税務署に赴いたが、係官が不在であり、その後、再度の呼出しに応じて税務署に赴き、係官と話合いをしたところ、コピーの問題を巡って係官も感情的な応対となり、調査方法について合意が得られなかったものである。

原告代表者は、かつて税務署が原告から取得したコピーを取引先の反面調査の資料として使用したため、信用を失い多大な損害を被った経験があったことから、コピーを取ることをやめるよう申し出ただけであって、係官による調査を拒否したことはない。

したがって、青色申告承認の取消事由はなく、本件取消処分は違法である。

2  昭和五八事業年度の所得金額(争点2)

(一) 被告

原告は、昭和五八事業年度に、従業員退職金として一五〇〇万円を損金計上しているが、退職所得の源泉徴収票等の提出等はされておらず、従業員、役員の退職の事実はない。

原告は、右の一五〇〇万円は取締役中島満寿に対する退職給与金であると主張するが、仮に原告が一五〇〇万円を中島満寿に対して支払っているとしても、原告は親族身内による経営に係る同族法人の典型であるところ、中島満寿は取締役の退任と同時に監査役に就任し、単なる役員の肩書きの変更があったに過ぎず、中島満寿が同事業年度において退任した事実はないというべきである。したがって、右の一五〇〇万円は、退職給与には当たらない。

また、仮に右の一五〇〇万円が中島満寿に対する退職給与に当たるとしても、法人税法上、退職手当はその支給義務の確定した日の属する事業年度の損金に算入すべきものである。本件の場合、中島満寿に対する退職慰労金の支給が承認可決され、その金額が確定したのは昭和五八年一一月二〇日又は同月三〇日であり、いずれにしても、昭和五八事業年度の損金には当たらない(なお、原告は、翌事業年度以降において右一五〇〇万円の退職慰労金をそれぞれの事業年度の確定決算において損金として計上していないのであるから、翌期以降の各事業年度の損金にもならない。)。

したがって、原告の昭和五八事業年度の所得金額は、前記一4の金額(マイナス四四五万三三一九円)に一五〇〇万円を加えた金額すなわち一〇五四万六六八一円である。

(二) 原告

原告の取締役中島満寿は、昭和五八年九月三〇日に退任した。原告は、中島満寿が原告の前身である中駒商店及び中駒毛織時代から約四〇年にわたり勤続したことによる功労に対し、退職慰労金を支給することとし、同月二〇日、臨時取締役会を開催し、中島満寿に対して退職給与一五〇〇万円を支払ったものであり、右金額を当期の損金となる。

中島満寿は、取締役の退任後は現業を離れることとし、監査役に選任されたものであり、月額報酬が変わっていないとしても、それは、取締役のときから低額であって特に減額する必要がなかったからである。また、商業登記簿上、中島満寿の取締役退任が昭和五八年一一月三〇日となっていること、退職金の支給について同月二〇日の株主総会及び取締役会で決議されたことになっているのは、司法書士に手続を任せていたためであり、実際には同年九月三〇日に退任していたものである。

したがって、右金額については損金算入を認めなかった本件更正は、違法である。

3  昭和五九事業年度の所得金額及び法人税額並びに重加算税賦課決定の適否(争点3)

(一) 被告

原告の昭和五九事業年度の所得金額の算定については、前記一5のマイナス一八三万七三六二円に、次の(1)ないし(3)の金額を加え、(4)の金額を減ずる必要があるから、同事業年度の所得金額は二一五五万五九三七円である。

さらに、これに対する法人税額について、(5)のとおり、租税特別措置法六三条一項(昭和五九年法律第六号による改正前のもの。以下同じ。)による特別税率を適用すべきであるから、法人税額は一六九八万五四〇〇円であり、本件更正に係る法人税額を上回る。

また、次の(1)及び(2)の収入除外行為は重加算税賦課の対象となるので、その金額の合計(一七六五万〇五〇〇円)に対応する法人税額(七一三万八七〇〇円)及び(5)の重課に係る法人税額(三五四万九六〇〇円)を計算の基礎として重加算税額を算出すると、三二〇万四〇〇〇円となり、本件賦課決定に係る重加算税額を上回るので、本件賦課決定は適法である。

(1) 土地譲渡益金の収入除外額 一六一二万円

〈1〉 原告は、昭和五九年二月ころ、その所有に係る一宮市大浜二丁目六番一〇の宅地八〇・〇〇平方メートル及び同市大浜二丁目六番一二の雑種地四八〇平方メートル(以下、両地を合わせて「甲土地」という。)を、訴外艶吉染色整理株式会社(以下「訴外会社」という。)所有の同市大浜二丁目二番四の雑種地四五平方メートル(以下「乙土地」という。)との交換契約(訴外会社において交換差金二一七〇万円を支払う旨の約定が含まれている。以下「本件交換契約」という。)により訴外会社に譲渡した。

なお、甲土地は、中島満寿の所有名義となっており、本件交換契約も中島万寿名義で締結されているが、これは、原告が名義を借用して行ったものである。

〈2〉 原告が甲土地の譲渡によって得た収益の額は、乙土地の時価三七六九万円及び交換差金二一七〇万円並びに原告が手数料名目で受け取った六八万円の合計六〇〇七万円であり、その売上原価は、甲土地の買入価額四三二七万円から原告が甲土地の売主から手数料名目で受け取っていた一二九万八〇〇〇円を差し引いた四一九七万二〇〇〇円であるから、これを差し引くと一八〇九万八〇〇〇円となる。

原告は、確定申告において手数料名目で訴外会社から受け取った六八万円及び甲土地の売主から受け取った一二九万八〇〇〇円(合計一九七八万八〇〇〇円)を益金に計上しているため、甲土地の譲渡に係る収入除外額は、一八〇九万八〇〇〇円から右一九七万八〇〇〇円を差し引いた一六一二万円である。

(2) 雑収入除外額 一五三万〇五〇〇円

原告の訴外纓坂登志男に対する貸付金の担保物権が競売ら付され、原告は昭和五九年八月二〇日に一五三万〇五〇〇円の分配金を得ているところ、原告は、これを益金に計上せず除外していた。

右行為は、重加算税賦課の対象となる。

(3) 欠損金の当期控除額不当 六六九万三三一九円

原告は、確定申告において、前記一4の昭和五四事業年度の欠損金一五万一七〇一円及び昭和五八事業年度の欠損金として六五四万一六一八円合計六六九万三三一九円を所得金額から控除しているところ、右昭和五四事業年度の欠損金については、前記一4のとおり昭和五八事業年度において所得金額から控除したものであり、昭和五八事業年度においては欠損金においては欠損金は認められない。したがって、昭和五九事業年度においては、所得控除の認められる繰越欠損金は存在しないので、六六九万三三一九円を申告額に加算すべきである。

(4) 事業税の損金認容額 九五万〇五二〇円

被告が原告の昭和五八事業年度の所得金額についてした本件更正により、原告が納付することとなる事業税の額であり、これを昭和五九事業年度の申告所得金額から減ずる必要がある。

(5) 土地譲渡益に対する重課 三五四万九六〇〇円

前記(1)の譲渡益については、租税特別措置法六三条一項により特別税率が適用されるから、法人税額に、別表六のとおりの計算により、三五四万九六〇〇円を加えるべきである。

(二) 原告

甲土地は、昭和五九年二月ころ、中島満寿が北野武から代金四三二七万円で買い受け、中島満寿がこれを訴外会社所有の乙土地と交換したものである。したがって、甲土地の譲渡益は、中島満寿に帰属するものであって、原告には帰属しない。

なお、右の買受け及び交換の具体的な交渉は、原告が不動産業者として仲介したものであるが、それはあくまで中島満寿からの依頼によるものであり、同人は原告に対して仲介手数料を支払っている。また、中島満寿は、甲土地の譲渡益について所得税の申告をしている。

したがって、右譲渡益が原告に帰属するとした本件更正は、違法である。

4  昭和六〇事業年度の法人税に係る重加算税賦課決定の適否(争点4)

(一) 被告

原告は、昭和六〇年一月、奥井健吉から一宮市大和町馬引字郷成亥二一八二番及び二一八三番の宅地合計九一五・六九平方メートル(以下「丙土地」という。)を代金一四六〇万円で取得し、丙土地上に居住していた高山信夫に立退料一〇〇万円を支払い、そのいずれも仕入れとして損金経理したが、昭和六〇事業年度の決算に当たって、丙土地を期末たな卸商品として資産に計上すべきところ、これを計上せず、資産から除外し、所得金額を過少にした申告書を提出した。

右行為は、課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいしたものであるから、重加算税賦課の対象となる。

したがって、右重加算税賦課決定は、適法である。

(二) 原告

丙土地については、原告が買主として売買契約を締結した際には、売主所有の家屋の借家人三名の立退きが条件となっていたものであるが、実際には、高山信夫以外の二名は立ち退かず、調停も不調となった。

したがって、原告は、丙土地について資産価値がまったくないと判断してたな卸資産に計上しなかったものであり、その処理について誤った判断をしたに過ぎず、事実を隠ぺいしたものではない。

第三判断

一  争点1(本件取消処分の適否)について

1  法人税法一二七条一項一号は、青色申告承認の取消事由の一として、「その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条一項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないこと」と定めているところ、税務調査に当たり当該法人が帳簿書類の提示を拒否した場合も右取消事由に該当するものと解するのが相当である。けだし、法人税法が青色申告承認取消事由を設けているのは、当該法人の帳簿書類について税務署長が税務調査を行うことができることを前提として、その調査により帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われていることが確認できた場合にのみ青色申告承認による特典を与えるとの趣旨に出たものであるから、右の取消事由にいう「帳簿書類の備付け及び保存」という文言は、税務職員から提示の要求があった場合にはいつでもその要求に応じ得るような状態で備付け及び保存をしておくことを意味するものと解すべきであり、税務調査に当たり帳簿書類の提示を拒否した場合にはそのような「帳簿書類の備付け及び保存」が行われていると認めることができないからである。

2  そして、証拠(乙九、証人浅井、同小田、同中島實、同中島清子)によれば、以下の事実を認めることができ、これに反する証人中島實の証言は、証人浅井及び同中島清子の証言に照らし、採用できない。

(一) 被告職員二名(浅井上席調査官及び大江調査官)は、原告の本件各事業年度の法人税の調査のため、予め二日間にわたって帳簿書類等に基づいて調査を行うことについて原告の了解を得た上、昭和六一年四月二三日午前九時三〇分ころ、原告事務所を訪れ、同日午前一〇時ころから原告代表者中島實、その妻中島清子及び尾西商工会記帳専任職員の大野健治の立会いを得て調査を開始した。中島實は約一時間後に外出したが、被告職員は調査を続けた。

(二) 調査の内容は、元帳の中から必要な箇所をメモし、それに対応する帳簿書類(不動産業に関し不動産取引台帳、物件説明書及び契約書、金融業に関し貸金台帳)の提示を求めるものであった。その際、被告職員は、立ち会っていた中島清子に依頼して、不動産取引関係の契約書及び取引台帳一、二点ずつのコピーを取らせ、これを入手した。

(三) そして、昼食及び休憩をはさんで、同日午後一時から調査を再開したところ、外出先から帰社した中島實が、右のコピーを返すよう申し入れたため、被告職員はコピーを返したが、中島實から「今日はだめだ、帰れ。」と言われたため、調査を中止して、税務署に戻った。この段階では、調査は収入面の確認の途中であり、貸金台帳も数頁しか見ておらず、不動産取引についても調査の途中であったし、経費及び決済関係の状況については着手していなかった。

(四) その後、被告職員は、尾西商工会の大野を通じて照会したり、原告の取引先に対する反面調査を行うなどして調査を続ける一方で、原告に対し数回にわたり電話をして帳簿の提示を要請したが、原告側はこれに応じなかった。

3  右に認定した事実によれば、原告代表者中島實は、原告の帳簿書類に対する税務調査の途中で調査の続行を拒否し、その後も被告職員から帳簿の提示の要請を受けながらこれに応じなかったのであるから、原告は帳簿書類の提示を拒否したものというべきである。

したがって、1において判示したところに照らせば、原告については、昭和五八事業年度以後の法人税について青色申告承認の取消事由があるというべきであるから、本件取消処分は適法である。

二  争点2(昭和五八事業年度の所得金額)について

1  取締役中島満寿に対する一五〇〇万円の退職慰労金を損金計上することができるかどうかについて検討する。

(一) 原告の主張に係る中島満寿に対する退職慰労金は、同女の在職中における職務執行の対価として支給される取締役の報酬に当たると解される(なお、原告の同事業年度の確定申告書(乙四五)添付の「買掛金(未払金・未払費用)の内訳書」には相手先として「従業員」と記載されているが、後記のとおり作成された株主総会議事録等の関係書類の記載に照らすと、従業員としての中島満寿に労務提供の対価として支給したものということはできない。)から、定款でその額を定めていないときは、株主総会の決議をもってその額を定めなければならない(商法二六九条)。また、法人税法上、費用は支出すべき義務が確定したときの属する年度の損金に算入すべきであるから、取締役に対する退職慰労金を損金として計上できるのは、株主総会又はその委任を受けた取締役会において具体的に支給すべき額が確定した日の属する事業年度である。

(二) 原告における取締会に対する退職慰労金の支給については、定款にその額の定めがあったとすべき証拠はなく、また、昭和五八事業年度中に退職慰労金の支給に関して株主総会の決議がされたとすべき証拠もない。

なお、証人中島實及び同中島満寿は、中島満寿が昭和五八年九月三〇日付けで原告の取締役を退任し、原告は同月二〇日臨時取締役会において同女に対し退職慰労金として一五〇〇万円を支給することを決議した旨供述し、これに沿うものとして、同日付けの臨時取締役会議事録(甲七)が提出され、これには、「当社取締役中島満寿の取締役辞任にさいして退職慰労金を当社前身中駒商店及び中駒毛織からの勤続年数四〇年と長年の功績を認め一五〇〇万円也を昭和五八年九月三〇日に贈呈する事を審議の結果全員一致をもって取り決めた。」と記載されている。しかしながら、右の臨時取締役会は株主総会の委任を受けて右のような決議をしたものとはいえない上、右の議事録とは別に、昭和五八年事業年度の経過した同年一一月二〇日付けで、中島満寿の取締役退任につき勤続四〇年間をねぎらうため退職慰労金を贈呈し、その金額を取締役会に一任する旨の記載のある定時株主総会議事録(甲四、乙一)及び右退職慰労金の額を一五〇〇万円とする旨の記載のある取締役会議事録が作成されている(甲三、乙二)ことに照らすと、前記臨時取締役会の決議によって中島満寿に対する退職慰労金として具体的に支給すべき額が確定していたものと認めることはできない。

(三) したがって、昭和五八事業年度において、中島満寿に対する一五〇〇万円の退職慰労金を損金計上することは許されない。

2  右によれば、原告の昭和五八事業年度の所得金額は、前記第二の一の4の金額マイナス四四五万三三一九円に一五〇〇万円を加えた額すなわち一〇五四万六六八一円となるところ、本件更正は、所得金額をこれと同額としたものであるから、適法である。

また、原告が同事業年度の所得金額を過少に申告したことについて正当な理由があるとの主張立証はないから、右所得金額を前提としてされた昭和五八事業年度の法人税の過少申告加算税に係る本件賦課決定も適法である。

三  争点3(昭和五九事業年度の所得金額及び法人税額並びに重加算税賦課決定の適否)について

1  土地譲渡益金の収入除外の有無について

(一) 甲土地及び乙土地の取引に関して、(1) 北野武を売主とし、中島満寿を買主として、甲土地を代金四三二七万円で売買する旨の昭和五九年二月一〇日付けの不動産売買契約書(乙七添付のもの)、(2) 中島満寿と訴外会社との間で、甲土地と乙土地とを交換し、訴外会社が中島満寿に対して交換差金二一七〇万円を支払う旨の作成日欄空欄の不動産交換契約書(甲五)、及び(3) 中島満寿を売主とし、原告を買主として、乙土地を代金二二〇〇万円で売買する旨の作成日欄空欄の不動産売買契約書(甲六)が作成され、原告は右(1)及び(2)の契約について不動産仲介業者として関与したことになっており(甲五、乙七、八)、他方、中島満寿は、昭和五九年分の所得として、乙土地の譲渡により、収入金額二二〇〇万円、必要経費二一五七万円(右(1)の売買代金から(2)の交換差金を差し引いた額と一致する。)差引金額四三万円として、同額の短期譲渡所得があった旨の確定申告をしている(乙五)。また、不動産登記簿上は、甲土地について、昭和五九年三月一五日受付の所有権移転登記により北野武から中島満寿へ、同年四月一〇日受付の所有権移転登記により同女から訴外会社へ、それぞれ名義が移り、乙土地については、同日受付の所有権移転登記により訴外会社から直接原告に名義が移っている(弁論の全趣旨)。

(二) しかしながら、証拠(甲五、六、八、乙三の一、二、乙七、八、乙一一の二ないし五、乙一二、一三、乙一四の一、二、乙一五、乙一六の一、二、乙一七、一八、乙一九の一、二、乙二〇ないし三一、乙三二の一、二、乙三三、乙三四の一、二、乙三五ないし三七、乙三八の一ないし六、乙三九、乙四二、証人長崎晃、同北野照夫、同中島實、同中島満寿)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和四四年に中島實が中心となって設立した会社であり、不動産取引、貸金業等を業務としていた。中島満寿は、中島實の母で、昭和五八年一一月三〇日までは原告の取締役、同日以降は同じく監査役の職にある。

(2) 北野武は金策のために甲土地を売却することとし、当時原告代表者であった中島實は、昭和五八年一二月又は昭和五九年一月ころ、住友銀行一宮支店を通じて甲土地の買手を探してほしいとの依頼を受けた。中島實は、そのころ、甲土地の道路をはさんだ向い側で染色工場を営んでいる訴外会社に話を持って行ったところ、訴外会社は訴外会社所有の乙土地との交換契約によることを申し出た。そこで、甲乙両土地を交換することとなり、同年二月一〇日、中島満寿名義で甲土地を北野武から買い受ける旨の契約書及び中島満寿と訴外会社との間で甲乙両土地を交換する旨の契約書が作成された。

(3) 北野武が甲土地を売却する売買価額は、北野武の子北野照夫と中島實との間の折衝により四三二七万円とされ、かつ、売主である北野武が原告に対し右価額の三パーセントに相当する一二九万八〇〇〇円を仲介手数料名目で支払うこととされた。また、訴外会社との間では、訴外会社代表者と中島實との間で、甲土地(一六九・六九坪)は坪当たり三五万円、総額五九三九万円と評価し、これを乙土地と交換するについては訴外会社が交換差金を二一七〇万円支払うこととした(したがって、訴外会社に対する乙土地の譲渡価額は三七六九万円であり、訴外会社は乙土地の譲渡によって同額の収益があったとして修正申告をしている。)

(4) 同日、中島實は、住友銀行一宮支店及び第一勧業銀行一宮支店の原告名義の口座から引き出した金員によって、北野武に対する売買契約の手附として四三〇万円を支払い、かつ、同日、訴外会社から交換契約の手附として現金三〇〇万円を受け取った(これについては中島満寿名義の領収証を訴外会社に交付した。)

(5) 次いで、中島實は、同月二〇日に、訴外会社から交換差金の内金として一七〇〇万円を小切手で受け取り、これを第一勧業銀行一宮支店の中島満寿名義の通知預金として預け入れ、これを後に住友銀行一宮支店の同女名義の口座に移した。

(6) 中島實は、同年三月一四日、北野武に対する甲土地の売買代金の残金(売買代金四三二七万円から手附四三〇万円を差し引いた三八九七万円)を決済したが、その資金は、全額、住友銀行一宮支店の中島満寿名義の口座から引き出したものであった。しかし、同口座には、右(5)のとおり交換差金の一部として受け取った一七〇〇万円及び右決済の当日同支店の原告名義の口座から引き出された二一九七万円が預け入れられていたものであり、中島満寿固有の資金はまったく用いられなかった(同支店の中島満寿名義の普通預金口座は、昭和五八年九月以来昭和五九年二月まで残高がマイナス八〇万円ないし一〇〇万円程度となって貸越の状態にあった。)。

(7) さらに、同年四月九日、中島實は、訴外会社から交換差金の残額一七〇万円を小切手で受け取り、これを住友銀行一宮支店の中島満寿名義の普通預金口座に入金したが、その後同年五月三〇日に一〇〇万円、同年七月六日に九〇万円が引き出されている。なお、同年四月九日、原告は訴外会社から不動産売買手数料の名目で六八万円を受け取っている。

(8) 中島満寿及び原告は、乙土地を代金二二〇〇万円で原告に売り渡す内容の不動産売買契約書を作成し、原告は、訴外会社に対し乙土地を同年四月一日からこれを賃料月額二〇万円で駐車場として賃貸している。なお、原告から中島満寿に対して右売買の代金として二二〇〇万円が支払われた事実はない。

(9) 右各取引の経緯において、契約の締結や代金等の支払、受領等の際に、中島満寿が立ち会ったことはなく、契約書等の同女の氏名は中島實が記名したものである。

(三) 右事実を前提として検討するに、甲土地の買受けの資金は原告名義の預金口座から引き出された金員及び訴外会社から受け取った交換差金であって、中島満寿の資金は用いられていないこと、北野武に支払われた手附は原告が直接の預金口座から引き出した金員を充てたものであり、訴外会社から受け取った手附についても原告が受け取っていること、甲土地の買受けと甲乙両土地の交換とは契約締結の日が同じ日であり、中島満寿が甲土地を自ら買い受ける必然性はない上、同女は三七六九万円の取得価額で取得した乙土地を代金二二〇〇万円で原告に売り渡したことになっており、同女が真実これらの取引の主体となっていたとすれば極めて不自然な取引をしたことになること、各取引の過程で中島満寿が土地取引の当事者として意思決定をし、また、資金を調達した形跡が窺われないこと、以上のような事情によれば、甲土地の買受け及び甲乙両土地の交換の当事者は、中島満寿ではなく原告であり、甲土地の譲渡益は原告に帰属するものと認めるのが相当である。

証人中島満寿は、亡夫中島義夫が原告に対して約二五〇〇万円の貸付債権を有しており、これと昭和五八年九月に支給を受けた同女自身の退職慰労金一五〇〇万円とを合わせたものが資金になったと供述しているが、右貸付金債権の存在を裏付ける客観的な資料は何ら提出されておらず、当時原告代表者の立場にあった証人中島實もそのような債権の存在に触れていないことからすれば、右供述からそのような貸付金債権があったとすることはできないし、また、未払の退職慰労金が存在していたとしても、それが甲土地の買受代金の一部に充当されたとすべき証拠もない。

また、証人中島實は、甲土地の買手が見つからなかったので一旦母親である中島満寿に甲土地を買い受けさせることとしたが、その後訴外会社が甲土地を入手したいと希望したものであり、そのため訴外会社は乙土地との交換を申し出たが、中島満寿は乙土地は保有していても仕方がないので原告が乙土地を下取りすることとした旨供述するけれども、前示認定のとおり、甲土地の買受契約と甲乙土地の交換の契約は同じ日に締結されており、また、中島満寿には甲土地購入の資力もなかったのであるから、証人中島實の右供述は採用することができない。

そして、以上において判示したところによると、原告は、甲土地の譲渡益を隠ぺいするために、中島満寿が契約の当事者となり、自らは不動産仲介業者として関与しているかのような外形を作り出したものとみるべきであるから、中島満寿名義で契約書類が作成され、甲土地について同女名義の所有権移転登記を経由している事実並びに北野武及び訴外会社がいずれも原告に対して仲介手数料名目の金員を支払っている事実は、いずれも右認定を左右するものではないというべきである。

(四) 右に判示したところによれば、交換により甲土地を訴外会社に譲渡したことによる譲渡益は原告に帰属するというべきところ、その額は、収益が乙土地の価額三七六九万円及び交換差金二一七〇万円並びに原告が手数料名目で受け取った六八万円の合計六〇〇七万円であり、その売上原価は甲土地の取得価額四三二七万円から原告が甲土地の売主から手数料名目で受け取っていた一二九万八〇〇〇円を差し引いた四一九七万二〇〇〇円であるから、これを差し引くと一八〇九万八〇〇〇円となる。原告は、訴外会社から不動産売買手数料名目で受け取った六八万円及び北野武から仲介手数料の名目で受け取った一二九万八〇〇〇円(合計一九七万八〇〇〇円)について、確定申告において益金に計上しているので、これを差し引くと、収入除外に係る譲渡益の額は一六一二万円である。

2  雑収入除外額について

証拠(乙四三、四四、証人小田)によれば、原告は、訴外纓坂登志男に対する貸付金の担保物権が競売に付され、昭和五九年八月二〇日、岐阜地方裁判所から一五三万〇五〇〇円の分配金を得ていたが、原告は、これを益金に計上していなかったことが認められる。

3  欠損金の当期控除について

前記第二の一4及び前記二判示のとおりであるから、昭和五四事業年度の欠損金一五万一七〇一円を昭和五九事業年度の損金に算入することはできず、また、昭和五八年事業年度において欠損金は生じていない(原告は六五四万一六一八円を損金計上していた。)から、結局、昭和五九事業年度において損金算入が認められる欠損金は存在しない。

したがって、昭和五九事業年度の欠損金として損金計上していた合計六六九万三三一九円を申告額に加算すべきである。

4  事業税の損金認容額について

弁論の全趣旨によれば、昭和五八事業年度の所得金額についてした本件更正により、原告が納付することとなる事業税は九五万〇五二〇円となることが認められるので、これを昭和五九事業年度の申告額から減ずる必要がある。

5  昭和五九事業年度の所得金額

前記第二の一5の争いのない所得金額に、右1ないし4に判示した金額を加減すると、原告の昭和五九事業年度の所得金額は二一五五万五九三七円となるところ、本件更正は、所得金額をこれと同額としたものであるから、適法である(なお、前記二1において判示した取締役中島満寿に対する退職慰労金について、仮に昭和五九事業年度において株主総会等の決議により支給すべき額が具体的に確定したものであるとしても、法人税法上、退職した役員に対して支給する退職給与の額のうち当該事業年度において損金経理をしなかった金額は損金の額に算入しないこととされている(三六条)から、当該事業年度において損金経理をしない限り、損金の額に算入することはできない。)。

6  法人税額について

また、前記1の甲土地の譲渡益については、租税特別措置法六三条一項により特別税率が課せられるものであるところ、弁論の全趣旨によれば、その計算は別表六記載のとおりであると認められるから、右5の所得金額に基づく法人税額に、三五四万九六〇〇円(別表六の5)を加えるべきである。

そして、これを前提として算出した法人税額は別表五の七記載のとおりとなり、これは本件更正に係る法人税額に上回るから、本件更正は適法である。

7  重加算税賦課決定について

前記1及び2の収入除外は、国税通則法六八条一項にいう納税者がその国税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいした行為に当たるから、重加算税の賦課の対象となる。

したがって、これを前提としてされた昭和五九事業年度の法人税の重加算税に係る本件賦課決定は、適法である。

四  争点4(昭和六〇事業年度の法人税に係る重加算税賦課決定の適否)について

1  証拠(乙四〇、証人中島實)によれば、原告は、昭和六〇年一月、丙土地を代金一四六〇万円で取得し、丙土地上に居住していた高山信夫に立退料一〇〇万円を支払い、そのいずれも仕入れとして損金経理したが、昭和六〇事業年度の決算に当たっては、丙土地を期末たな卸商品として資産に計上しなかったことが認められる(計上しなかった点については争いがない。)。

2  右の行為は、国税通則法六八条一項にいう納税者がその国税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいした行為に当たるというべきであるから、重加算税の賦課の対象となる。

原告は、土地上の建物の借家人の立退きが実現しなかったから丙土地の資産価値がまったくないものと判断してたな卸資産として計上しなかったのであり、その処理について誤った判断をしたに過ぎないと主張するけれども、土地上の建物に借家人がいることを前提として購入した土地について、その借家人が立ち退かないからといってその土地の価値がまったくなくなるはずがなく、これをたな卸資産として計上しない行為が、課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいする行為に当たることは明らかであり、原告の右主張は失当である。

3  したがって、右の行為に関してされた昭和六〇事業年度の法人税の重加算税に係る本件賦課決定は適法である。

第4結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 後藤博 裁判官 入江猛)

別表一

課税処分経緯表

昭和五八事業年度(昭和五七年一〇月一日~昭和五八年九月三〇日)

〈省略〉

別表二

課税処分経緯表

昭和五九事業年度(昭和五八年一〇月一日~昭和五九年九月三〇日)

〈省略〉

別表三

課税処分経緯表

昭和六〇事業年度(昭和五九年一〇月一日~市よ六〇年九月三〇日)

〈省略〉

別表四

昭和五八事業年度所得金額等一覧表

〈省略〉

別表五

昭和五九事業年度所得金額等一覧表

〈省略〉

別表六

課税土地譲渡利益金額等計算過程表

〈省略〉

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